大津地方裁判所 昭和41年(ワ)19号 判決 1967年2月13日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、「被告は原告に対し金二〇万円及びこれに対する昭和三五年五月一〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
原告は元土木請負業者であり、滋賀県東浅井郡及び坂田郡内の土木建築業者が相寄つて組織していた「滋賀県坂浅土木工業会」なる任意組合の会長を昭和二九年八月から昭和三四年六月までしていたところ、その間同会は事務所を持ち又相当な資金や財産を所有していたが、昭和三五年五月九日から「協同組合坂浅土木工業会」として発足することとなり、前の「滋賀県坂浅土木工業会」の全資産を一切「協同組合坂浅土木工業会」が承継した。そしてその際旧会員の持分を一人当り金二〇万円と評価して新会員の出資分として計算したのである。ところが原告は都合上右「協同組合坂浅土木工業会」の新会員とならず、従つて自然脱会したこととなるが、かかる場合当然前記旧会員の持分を一人当り金二〇万円と評価した計算に基き、脱会した旧会員に払戻返金すべきに拘らず、被告はこれを履行しないので、右金員及びこれに対する新会発足の翌日から完済に至るまで年五分の法定遅延損害金の支払を求めると陳述した。
証拠(省略)
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告は元土木請負業者であり、滋賀県東浅井郡及び坂田郡内の土木建築業者が相寄り組織していた「滋賀県坂浅土木工業会」なる任意組合の会長にその主張の期間就任していこと。原告が被告「協同組合坂浅土木工業会」に加入していないことは認めるが、その余の原告主張事実を否認する。被告は「滋賀県坂浅土木工業会」とは何らの関係なく、従つて同会の資産を承認継した事実はない。被告は各組合員より出資を新しく募集して成立したものであつて、「滋賀県坂浅土木工業会」の組合員一人当りの持分を金二〇万円と評価しこれを出資したものでない。従つて被告は原告に対し返還すべき何らの債務を負わないのであつて本訴請求は理由がないと陳述した。
証拠(省略)
理由
原告は元土木請負業者であり、滋賀県東浅井郡及び坂田郡内の土木建築業者が組総していた「滋賀県坂浅土木工業会」なる任意組合(以下訴外組合という)の会長を昭和二九年八月から昭和三四年六月までしていたこと及び原告が被告「協同組合坂浅土木工業会」(以下被告組合という)に加入していないことは当事者間に争いがない。
原告は、訴外組合は相当資産を有していたが、昭和三五年五月九日被告組合が発足に当り訴外組合の資産を一切承継し、その際訴外組合員の持分を一人当り金二〇万円と評価し被告組合の出資分として計算したと主張するけれども、この事実を認むべき証拠がない。尤も原告は甲第一号証を提出したが、これが真正に成立したものと認むべき証拠なく、仮に真正に成立したものと認められ且つその記載の文意が原告主張に副うものとしても、後記認定事実に徴し措信できない。即ち証人中村惣吉の証言と同証言により成立の認められる乙第三号証によれば、訴外組合は被告組合の成立と同時に解散したが、被告組合は訴外組合の資産を承継したことなく、また当初訴外組合員二八名は新たに出資を為して発足したもので、出資金一口金五千円のところ各組合員は現金で五万円ないし七万円を払込み、訴外組合の持分を金額幾許かに評価しこれを被告組合の出資金に振当てた如きは全くなかつたことが認められる。従つて原告の主張は採用できない。
なお証人中村惣吉の証言とこれにより成立を認める乙第二号証によれば、原告は既に昭和三四年六月二六日訴外組合を脱退したことが認められる。従つて原告の自認する被告組合成立日なる昭和三五年五月九日当時原告は訴外組合の組合員でなかつたことが明らかである。そして原告は訴外組合よりの脱退により仮に何らかの持分の払戻を受けうべきものありとしても、これを訴外組合に請求するは格別、被告組合に請求するは筋違いという外はない。
よつて原告の本訴請求は理由がないこと明らかであるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。